交通事故と生活費控除
1 死亡事故における生活費控除
事故で亡くなった場合、将来にわたり得られただろう収入を得られなくなります。
この収入の喪失による損害を「死亡逸失利益」といいます。
他方で、亡くなった場合には、その方の生活費の支出がなくなります。
したがって、死亡逸失利益の算定を行う際には、将来にわたり得られただろう収入から、支出を免れた生活費分を差し引く必要があり、これを「生活費控除」といいます。
生活費控除は、被害者の立場などを考慮し、一定の割合を控除します。
2 赤い本の基準
裁判で用いられることが多い「赤い本」では、被害者の立場に応じて、生活費控除率の目安を次のように考えています。
① 経済的に一家の支柱であった場合
被扶養者が1人 40%
被扶養者が2人以上 30%
② 女性(主婦、独身、幼児等を含む) 30%
③ 男性(独身、幼児等を含む) 50%
④ 兄弟姉妹のみが相続人のときは別途考慮する
3 生活費控除を考える際の注意点
実務上では、赤い本の目安を用いて生活費控除を考えることが多いといえます。
しかし、赤い本の基準は、あくまで目安にすぎないため、生活費控除率を下げる有利な事情がある場合には、積極的に主張立証する必要があります。
例えば、男性の独身であっても、養育費の支払いがなされている事情を考慮し、50%よりも低い45%の生活費控除率を認めた裁判例があります(大阪地判平成20年8月26日)。
養育費支払いの事実から、被扶養者がいる場合を参考に、通常の独身男性とは異なる部分もあると評価したものと考えられます。
また、女性の場合には、男性との平均賃金の差への配慮などから生活費控除率を比較的低めに考えられており、男性と同等ないしそれ以上の収入を得ている場合、目安を上回る生活費控除率を主張されることがあります。
このように相当の収入を得ている場合でも、家族構成や家族の職業等を踏まえ、働きながらも主婦として家庭生活を支えていた点が考慮され、生活費控除率を30%とした事例もありますので(東京地判平成26年11月26日)、収入以外の事情についてもよく検討する必要があります。
4 年金の逸失利益
年金部分についても死亡逸失利益が問題となります。
年金のみで生活をしている場合には、受給する年金から生活費に充てられる割合が多くなると考えられるため、生活費控除率は通常よりも高いと考えられています。
年金以外に相当額の不動産収入を得ていて、その不動産収入からも生活費を支出していたような場合には、年金の生活費控除率が下がることもあるため、どのような収入があって、どこから支出しているか家計の状況をよく確認するようにしましょう。
5 弁護士にご相談を
生活費控除率が賠償額に与える影響は極めて大きいです。
しかしながら、適切な主張立証をしなければ、赤い本の目安をそのまま用いたり、場合によっては目安よりも不利な内容で進められたりすることがあります。
適切な賠償を得るためには、交通事故に精通する弁護士にご相談されることをお勧めします。
弁護士法人心では、集中的に交通事故を取り扱う弁護士を中心に交通事故チームを作り、適切な賠償額の獲得に徹底的に取り組んでいます。
ご家族やお知り合いの方が死亡事故に遭われた場合には、まずは弁護士法人心 岐阜法律事務所までお問い合せください。
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